令和元年6月21日・初版


ティアラヒロインSP「三人の性隷天使・第7部:完結編」第1章「フォルティアの行方」


 突然だが、日本のリゾートというと、どちらを思い浮かべるだろうか?

著者はウインタースポーツを嗜むので、北海道のスノーリゾートが真っ先に浮かぶ。

 中でも、札幌から100キロを超える道央の山中に、4棟もの近代的なタワーホテルを備えた一大リゾートが好きだ。

 真冬だと、マイナス20度は当たり前。

 朝陽にきらめくダイヤモンドダストを眺めながら、高層階の暖かい部屋でホットコーヒーをすする。

 こんな非現実的な贅沢が、普通に楽しめてしまうところが魅力だ。

 一昔前、景気の良かった時期。

 日本全国で、このような非日常的なリゾートが開発され脚光を浴びた。

 ただ景気は循環するもので、常に上向きというわけには行かない。

 開発時の見込みより客数が下回れば、高額な維持費を捻出することが困難になり、運営企業は経営不振に見舞われる。

 その結果、多くは閉鎖に追い込まれ、安値で売却されていく。

 冒頭のスノーリゾートも、例に違わず、一度は閉業に追い込まれた。

 だが現在は、新たな企業の運営のもと、完全にその機能を取り戻している。

 元よりあった自然環境の素晴らしさと都会並みの設備。

 そこに優れたホスピタリティが重なり、さらに魅力的なリゾートとなっているのだ。

 こういった非日常を演出するリゾートが成功する条件はシンプルだ。

 都会にはない自然環境、それでいて都会に劣らぬ設備、そして都会以上のホスピタリティ。

 閉鎖物件の再開発の場合、環境や施設は既存の再利用となるため、ホスピタリティの向上が最大のポイントとなる。

 この場合、アイディアや想いといった人の力によるものが大きな意味を持つ。

 体温の感じられる「おもてなし」こそが、贅沢に慣れた顧客に満足を与えることが可能となるのだ。

 さて、話を戻そう。

 当初の質問の回答として、最多数になると思われるのが、日本最南端に位置する沖縄だ。

 青い空と海、そして白い砂浜を備えた350を超える島から成り立つ、常夏の楽園。

 その景観や環境の素晴らしさから、日本屈指のビーチリゾートとなっていることは御存じの通り。

 無論、景気の良かった時期には、幾つもの無人島が高級リゾートとして開発された。

 亜九乃島もその内のひとつ。

 景勝の別荘地ということで開発が進んでいたが、景気の下降により、完成直前にデベロッパーが倒産。

 南の島のリゾート転じて、ゴーストタウンとなってしまった。

 半ば廃墟化したところを、大手企業がタダ同然で買い取り、開発を引継ぎ、販売することとなった。

 少戸数、本島との距離、自然環境、既存のインフラ。

 致命的な弱点こそ無いのだが、近接の別荘地も同じようなもので、差別化が図りにくい。

 また、売り切り型のコンドミニアムなので、近隣の高級ホテルに比べたら、ホスピタリティの点でも優位には立てない。

 特別な話題でもない限り、通常の販売方法では大きな成果を期待出来ないのだ。

 そんなナイナイ物件に打ち出されたのが、南の島のハーレムプロジェクトだ。

 高級ホテルに建設し直すよりも、ハイクラスの女達を集め、夢の島を作り出す。

 超富裕層をターゲットにすれば、都心高額物件並みの価格設定も十分に可能になる。

 とんだ不埒な企画だが、いつでも経済合理性は倫理に優先される。

 物件自体の資質は良い。

 要は、売り出しの宣伝を成功させれば、プレミアムが付く。

 他の物件……それこそ廃墟のような倒産リゾートをハーレム化して蘇らせて、高値売却するビジネスモデルが完成するのだ。

 このような経緯から女達のスカウトには、その手の業界から考えると桁違いの額が投入された。

 体温というより、艶めかしい肌の温もり感じさせる……ホスピタリティを備えた亜九乃島シティのコンドミニアムは
第一期の販売から即時完売した。

 コンセプトは無法……この島と街は創られた無法地帯(もちろん無法が通るのは、男達の下半身の欲望だけだが……)だ。

 ビーチやプールだけでなく街中を、水着か、それ同様の露わな姿の若い女達が闊歩している。

 コンドミニアムの住人は、それをいつでも襲って良い権利が与えられている。

 白昼往来で犯しても良いし、自らの部屋へ連れ込み、様々な奉仕を課することが出来る。

 特定の女を長時間独占することだけは禁止だが、人数の制限も避妊も不要とされる、男達のパラダイスだ。


 ここで前話のオークションに話が繋がる。
この犯されるためだけの女達。

 その目玉としてレンタル落札されたのが、紅天使フォルティア……今は改め、性奴隷ルティア……というわけだ。

 セクシー水着の着用しか許されていないルティアの人気は目論見通りダントツだ。

 メタリックゴールドのTバックを履いたお尻を振ってモンローウオーク。

 僅かな距離の間に、たちまち光沢のビキニショーツを剥ぎ取られ、道端で熱い白濁液を注入される。

 キャッチ&リリースならぬ、セックス&リリースが街のルールだから、行為が済めば離される。

 漏れない程度に精液を拭ったら、新たに与えられたアニマル柄のブラジル水着に、着替え直してまた歩く。

 もちろん、すぐに野獣に狩られて、ズラされ、弄られ、舐められた上で、新たな肉棒を挿入されてしまう。

 島の住民は超がつく富裕層ばかり。

 とはいえ、レイプ解禁の島を選ぶくらいだから、倫理的にはロクな人種は居ない。

 ただ、超富裕層は紳士でこそないが、総じて頭の回転が速く、実行力がある。

 己の快楽を求めるためのアイディアは百出するのだ。

 ルティアのレイプもただの発散だけではなく、ゲーム化された。

 各々がお金を出し合って壮大な賭け事となっているのだ。

 誰がルティアを孕ませるか?

 出産の時点で、DNAを鑑定し、その父親が総取りすることになっている、不埒極まりないルールだ。

 性奴隷となった今でも、ティアラリングは外れていないので、ルティアは絶対妊娠しない。

 だが、そんな特性は本人にすら知られていないし、賭けそのものがいわば余興なので、完全決着の必要もない。

 一つ言えるのは、このルールのお蔭で口内射精やアナルファックは激減した。
ほぼ100%の確率で中出しとなったのだ。

 そんなわけで、ルティアはいつも犯される。

 他の女達は順番待ちの間の暇つぶしで狙われる……と言っても良いくらいなのだ。

 だからある意味、他の女達にしてみても、ここはパラダイス。

 男達の執着がルティアに集中するため、気が向かない場合や、嫌な相手なら、逃げれば追われることもない。

 買われて来たものの、心地良い南の島でブラブラ遊んで過していれば良いのだから最高というわけだ。

 当初は、女達も負担の大きなルティアに対して、申し訳ない気持ちを持った。

 しかし、男の人気を一身に集め、獣のような痴態を毎日見せつけられると気持ちも変わる。

 同情は嫉妬へ、哀憐は卑下となっていくのだ。

 ここ最近では、ルティアのレイプには彼女達も加わる。

 インナー無しの純白競泳水着を着たルティアに、ローションを塗りたくり、スケスケにしておいて……。
 
 ある女は擬男と化し、ローションの力を借りて易々挿入。果てなく犯す。

また別の女は同性として、ヌメリの中でルティアの肉体を弄り回すのだ。

 ルティア効果はもう一つ。

 バイアグラエネルギーにより老人の回復が圧巻だ。

 枯れ木のような肉体でも、一度、眼帯ブラの下にある乳首を吸えば、下半身だけは往年の漲りを取り戻す。

 後は上に跨らせるだけで、若く瑞々しい肉体に、人生の集大成を込めた精液をぶちまけることが出来るのだ。

 遠からずして、いわゆる腹上死が発生するかもしれないし、事実、それを狙う老人もいる。

 それは何もかもやり尽くした男に残された最後の夢の一つでもある。

 病で苦しみながら死ぬよりは、突然ぽっくり……いや、快楽の末に全てを出し切り果てた瞬間逝くことこそ
類まれなる幸せな往生と言えるだろう。

 フォルティア改めルティアは、老若男女、島中全ての者の玩具となって弄ばれるのだ。

 紐ビキニを剥ぎ取られ、剥き出しの巨乳を徹底的に揉みしだかれて……。

 老人の上に跨り、若い男に組み敷かれ、女達の前に四つに這わせられて……。

 いきり起った肉棒を受け入れ、絶頂と共に白濁液を子宮に注がれる。

 中出しされた後は、唇と舌で最後の一滴まできちんとお掃除。

 一連のルーティンワークは、鬼ヶ島で躾けられたまま、肉体で覚えている。

 失われたスーパーパワーの分だけ、性奴隷としての作法は完璧さを増したのだ。

 問題なのは、正義の信念とヒロインとしての理性だけは絶対に消えないこと。

 どれだけ汚されようとも、性奴隷という身の上を、心では受け入れることが出来ないのだ。

 だから、犯されれば強い屈辱に苛まれ、弄ばれる度に恥辱で心が熱く焦げる。

 宇宙貴族と夜盗鬼族に輪姦されながら運命づけられた絶望的な現実。

 様々なポーズをとらされ、愛の無いままに弄ばれ、人間達の肉棒を次々に受け入れる。

 誰からも蔑まれながら、肉欲だけの証を子宮で感じとりながら、絶頂に肉体を震わせる。

 そんなフォルティアの堕ちた日常が、ここ沖縄で繰り返されていく。


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 一方、瑠璃色の空と紺碧の海とは程遠い、コンクリートジャングルの中の薄汚れたビルの一室では……

 “トゥルルル……トゥルルル……”

 着信音ががらんとした事務所に鳴り響く。
普段なら即座に受話器が取られるのだが……今日に限ってそれは難しい。

 二日酔いで切れの悪い身体を無理やり動かし、風下は受話器を取った。

「もしもし……こちら風下探偵事務所ですが……」

 週明けの今朝、風下探偵事務所は完全な人手不足状態に陥っている。

 優秀な女子社員である鈴谷聖美と、アシスタントの星流奈が先週末から揃って出掛けたままなのだ。

 張り込みや調査が足掛け二週に渡ることは珍しくないし、週末直帰の週明け直行で3、4日事務所を空けることもままある。

 連絡は無いが、心配無用のメモが残されていたし、何かのトラブルに巻き込まれたとしても
聖美と流奈、二人揃ってのことだから対処は可能。

 そもそも身の危険を感じるようなトラブルに巻き込まれる可能性など無いに等しい。
 
 殺人事件や誘拐事件に巻き込まれるのは「小説」の世界の話であり、それも名探偵と相場が決まっている。

 「小説」の舞台でもなく、名探偵でもない風下探偵事務所の業務というのは、一般で考えるより遥かに危険が少ないのだ。

 ただ、今回だけはいつもと何だか調子が違い、風下の胸騒ぎは治まらない。

 上手く説明出来ないが、時間の流れる速度がいつもと違うというか、金曜から今朝までの期間
すなわち聖美や流奈と顔を合わせない週末が妙に長く感じられたのだ。

(今日一日連絡を待ってみて、駄目なら警察に協力を要請してみようか?)

 これが一応、現在の風下の方針となっている。

「……あいにく本日は立て込んでいて……」

 無論、業務も気乗りがしないので、いつも通りに、さっさと電話を切るつもりでいた風下だったが
相手の声が脳にたどり着いた瞬間、受話器を耳に当てたまま固まった。

 理由は二つ。

 相手が女性……しかも品のある澄んだ声からして、美女であることは長年の経験で間違いないことと
簡単に切れないほど落ち着いた口調の中に真剣さが伺えるからだ。

「どうしてもお願いしたい依頼なのです! それも事は重大、急を要する内容で……あっ、申し遅れました!
私は聖望女子大学で宇宙物理学を教えている萩原と申します……」

 風下は一瞬、自分の耳を疑った。

 聖望大学の萩原教授といえば、日本科学の至宝と云われる才女であり、女優に劣らぬほどの美女でもある超大物文化人。

 ノーベル賞候補になるかと思えば、好感度ランキングでも上位に位置する、老若男女を問わない憧れの的だ。

 出演したバラエティーを見たことがあるが、隣の超人気アイドルが品の無い小娘に思えるほど、その美貌は大人の魅力に包まれ、
そのまた隣の権威ある評論家の意見が田舎のオヤジの戯言に思えるほど、その知性は洗練されていた。

「えっ……ええっ〜! あっ、あの……TVでも有名な萩原教授ですか? ほっ、本当?」

「はい、私は萩原……本人です。実は今、事務所の前におります。よろしければ、これからお伺いしたいのですが……」

 幸いにも事務所の中は恥ずかしくないレベルに整頓されている。

 仮に、密着取材のTVカメラが付いて来ても何とかなる……と判断した風下は、相変わらず上ずった声で答えた。

「わっ、判りました……お待ちしております!」

「ありがとう、それではこれからお邪魔します」

 ノックに反応して風下が扉を開けると、華奢で小顔の女性が立っていた。

「ようこそいらっしゃいました、萩原さん……いえ、萩原教授! いつもTVで拝見しています!」

 実物の萩原教授は画面で見るより華やかで都会的だ。

 加えて、絶対に手が届かないように思えてしまう犯しがたい気品にも溢れている。

 若干年上のはずだが、外見は若やいでいて、落ち着いた雰囲気を醸し出す……
年齢不詳ではあるが、憧れの美女なのは間違いない。

 とりあえず風下は握手した掌を当分洗わないことだけは決意した。

「無理を申し上げて申し訳ありません。ただ、風下先生でないとお願い出来ないような気がして……」

 差し出された名刺とともに上品な香水の香りが漂い、風下は酔いそうになった。

「風下先生!? あっ、そんな先生だなんて……そっ、そうだ、それよりお困りの様子ですが、一体どういったことでしょう?」

「はい。お願いしたいことが二つあります。一つは私の補佐をしている姪の萩原紅子の行方が先週末から判りません。
2〜3日のことですから過保護と思われても仕方ないのですけど……妙な気分になるのです。
そう、何と言うか、ここ一ヶ月ほど行方不明になっているような気がしてならないのです。
気になって彼女のパソコンを調べて見ると、こちらへ何か調査依頼をしていたようで……胸騒ぎを感じます」

 2〜3日=ひと月。余りにも一致する妙な感覚に風下の胸騒ぎも高まってゆく。

「同じだ……実は私共の調査員も同じように出て行ったきり戻らないのです。
確かに姪御さんから調査依頼を受けていたようですし……もしかすると一緒なのかも?」

どうやら紅子の行方不明に聖美や流奈も関わっているようだ。

「そうでしたか! 是非、行方を捜して頂きたいのです! 当方には手掛かりすら無くて……あらっ、電話が!
失礼してよろしいですか?」

 萩原教授は申し訳無さそうにスマホを取り出すと、端正な顔を翳らせながら電話に出た。

「はい、萩原です! またですか? 例のお話はお断りしたはずです。
何度、御連絡を頂いても私は政治家になる気はありませんので……」

 風下にはさほど関係の無い話ではあるが、時に政局は風雲急を迎えており、解散総選挙が近いとも言われている。

 著名であり知的美人、しかも前内閣時代、民間登用の文部科学諮問委員として活躍していた萩原教授に
出馬オファーがあるのも当然のことといえる。

「与党側のお誘いもお断りしていますので……。はい、何度ご連絡頂いても気持ちは変わりませんけど……。では、失礼致します」

 けんもほろろに萩原教授は電話を切った。

 相手が誰かは判らないが、野党の著名な大物幹部に違いない。

「失礼しました。お話が途切れてしまいましたね」

 すまなそうに謝る萩原教授だったが、すでに一つ目の依頼の内容は明確だ。

 姪の紅子と聖美に琉奈。

一体、3人は何を調べていたのか、そして何処へ行ってしまったのだろうか?

(何か手がかりは……。萩原教授は姪のパソコンから、ここにたどり着いたんだよな……。あっ!)

 そのときになって、風下は未だ聖美のパソコンを調べていないことに気付いた。

 手掛かりは検索履歴に残されているに違いないのだ。

 思い巡らしているうちに、萩原教授は二つ目の依頼を切り出した。

「二つ目は極秘にお願いしたいことなのです。今の電話にもあったように
私は次期国政選挙に与野党双方から立候補を誘われています。
もちろんその気はありませんからお断りをしているのですが、どちらも疑心暗鬼になっているようで
互いの中傷合戦といいましょうか、内情暴露をして来るのです」

「はあ・・・」

 政治のゴシップ話になると、どうしても気のない相槌になってしまう。

 通常ならば多少なりとも興味も湧くが、時期が時期なのだ。

「いえ、問題はその暴露内容なのです。実は、私の口からは申し上げ難いのですが……」

 風下から視線を外しながら、萩原教授は続けていく。

「薄々はご存知かと思いますが、日本でも外国要人の夜の接待に女性を用意する場合があります。
外務省手配であったり、総理の指示であったりするのですが、今までは必要時に業者へ依頼しておりました。
ただ、先だって、政府では専用の女性を手に入れたらしいのです」

「へぇ〜、つまり・・・国家のコールガールというわけですね?」

「特定の女性を税金で飼うなどとんでもない! 女性としては許せないでしょ!?
だから与党からの立候補は見合わせろ!というのが、野党の誘い文句になっているのです」

 確かにとんでもない話ではあるが、他国のハニートラップの凄まじさは半端ないらしい。

 ある意味、日本外交もそれなりに進歩しているのかも知れない。

 ただ、時期が時期。

 風下にとっては、どうでもいいゴシップには変わりはない。

「私見では、外交ですから、そういった接待も必要な場合があるかとは思います。
また、何らかの手配システムも必要でしょう。
ただ、そんなことはどうでもよいのです。問題なのは、そんなこんなで、とある与党議員から彼女の写真を見せて貰ったところ……
凄く気になってしまって……」

「ご存知の方に似ている……ですか?」

「いえ、そうではないのですが、その女性にシンパシーというか、言い表せないような親近感を感じてしまいました」

 自分でも意識し磨いている部分ではあるが、風下は情報収集能力に絶対の自信を持っている。

 特に、初対面の相手から話を引き出すのは得意中の得意。

 相槌や問いかけを繰り返す中で、なんとなく余計なことまで話したくさせてしまうのだ。

「詳細はお話しできませんが、私は大学とは別にある機関に属しています。
そこには崇高な目的を一つにしたあらゆる国籍、人種、年齢の方々が属しているとお考えください。
そしてその人達には一つの共通する特徴があります。その特徴は姿形では判りません。
ですが、感じることが出来るのです……そう、普通の人には見えないけれどとても神聖なオーラが放たれているのです」

そこで萩原教授は大きく息をついた。

「あっ、少し逸れていますか? ただ宗教なんかではありませんのよ」

 普通の一般人なら、宗教かオカルト系に聞こえる話かも知れない。

 だが、ここは風下探偵事務所である。オカルト系は寧ろ、得意分野だ。

「いえ、大丈夫ですよ。信じていただけないと思いますが、私など、宇宙から来たヒロインに何度も助けられたことがあって……
ああっ、そんなことより、お話を続けてください!」

萩原教授は微笑と共に続けた。

「ありがとう。そう、もちろん、その機関の構成員がいかなる理由であっても、自らコールガールのような仕事につくはずはありません。
だから、とても不思議に思っているのです。また、年頃も……」

 そこで萩原教授はふいに言葉を切った。

 さすがに行方不明である姪の紅子と同世代で、何か関連があるように思えてならないとは言えなかったのだろう。

「きっとマインドコントロールのようなもので縛られているように違いありません。
とにかく、私の希望としては、彼女をその境遇から解き放って頂きたいのです!」

 話はいささか突飛だが、二つ目の依頼内容にも断る理由は何も無い。

 無論、萩原教授の心配は杞憂だ。紅子や聖美達の失踪とコールガールの間には、何の関連性も無い。

 コールガールの写真は少し前に撮られているから、昨日の失踪とは時系列が合わないのだ。

 その点では絶対の安心があるので、客観的な調査が出来る。

「なるほど、よく判りました。ただ、相手が国家の中枢となると、潜り込む手段がありません。
会わずにマインドコントロールから解き放つことは難しいと思いますが……」

「もちろん、逢って頂きますわ。必要な手配も私の方で行います。
そうですね、所長さんには、外国人科学者になって頂いてはいかがかしら?
日本の血を引いているということにすれば、日本語で通しても問題ないでしょう。どうせ一時の方便ですし……」

 さすがは切れ者の萩原教授だ。プロデュース能力にも長けている。

「判りました、それでは調査を開始しましょう! 紅子さんの手掛かりは早速これから調べますが……」

「それなら、もう一つも明日では如何ですか? 紅子の手掛かりを伺った後で、早速、彼女と会合して頂ければと思います。
いささか急過ぎますか?」

「いいえ、問題は緊急ですから! 明日、その足で出来るなら、その方が良いと思います」

「それではお願い致します。明日の午後二時に千代田ホテルでお待ちしております」

 萩原教授が居なくなり、事務所に静寂が訪れた。

 まず調査すべきは、聖美のパソコンの最終検索履歴である。

 そのキーワードかサイトに手掛かりが凝縮されているに違いないのだ。

 果たしてそれは、ある昭和史専門の学者のサイトだった。

「なになに……本土防衛作戦?! これか……!」

 第二次世界大戦末期、米軍の本土上陸を迎え撃つため、日本軍は様々な作戦を準備した。

 その一つが、電磁波を利用してステルス性能を持たせた人工の島を東京湾に設置するというものだ。

 ただ、その島が今もあるのかどうかは不明とされている。

 実際、ステルス機能があるとすれば、忘れられたまま放置されている可能性もあるのだ。

「これだ! これしかない!」

 誰も居ない事務所だが、思わず風下は声を挙げた。

 紅子の依頼内容は萩原教授から聞いている。

 物理学の軍事利用だ。

 そして聖美のPC履歴は軍事史サイトで止まっている。

 これが偶然であるはずもない。

 流奈が、どのようにして加わったのかは不明だが、概ね手順は同じはず。

 となれば、後は三人ともに現地調査に向かったと考えるのが自然だ。

 そして現地ならば、電話も圏外となる可能性が高い。

 交通手段が問題ではあるが、聖美や流奈の調整力と、紅子の社会的地位や資力を考えれば、ヘリを雇うくらいは可能だ。

 それならヘリコプター会社を当たれば、足跡を追うことは可能だし、あわよくば連絡まで取れるかも知れない。

 ここまで考えたところで「心配無用」というメモの文字が脳裏に蘇ってきた。

 航空事故や海難事故は必ずニュースになるが、該当するようなものは何も無い。

(そうだな、まだ月曜日。捜索は、明日、萩原教授に報告してからでも良いのかも知れないな!)

 そう考えた風下は一連の出来事の背景を掴むべく、サイトをより詳細にチェックし始めた。

 もちろん、この時も、いやずっと後になっても、ついに風下はその島の真の名前と、繰り広げられた事実を知ることは出来なかった。

 ティアラヒロインを犯す舞台となるために、歴史の闇から蘇った妖しい島……鬼ヶ島。

 この鬼ヶ島で、ティアラヒロイン三人娘が敗北し、輪姦され、調教された挙げ句、性奴隷に堕ちてしまったその事実を。

***つづく