令和元年7月19日・初版


ティアラヒロインSP「三人の性隷天使・第7部:完結編」第2章「風下の冒険」



 結局、夜更けまでサイトを熟読してしまった……。

 久しぶりの徹夜で、頭がぼーっとしている風下は、意識をはっきりさせるため、仕事の段取りを声に出して確認する。

「紅子さんの件は、これで良しと……」

「次の案件は、なんだっけ?……」

「そうだ!」

「都内のホテルで、政府高官御用達のコールガールに接触し、マインドコントロールから解き放つこと……」

 段取りに納得した風下は、アラームをセットして、仮眠をとった。

 眠い目をこすりながら、待ち合わせのホテルに到着した風下だったが、萩原教授に会った途端、いきなり眠気が吹っ飛んだ。

 教授が目の覚めるような美女を連れていたからだ。

 もちろん教授自身も美しいが、連れている女性は美しい上に、何しろ若い。

「今日はよろしくお願いします、所長さん。まず初めにご紹介を…内の大学の非常勤講師、楠風です。助手が不在でお困りでしょう。とりあえず今回、助手代わりに同行させてやってください」

「はじめまして、楠風理愛(くすかぜ・りあ)です。名探偵の先生と、一緒にお仕事させて頂くことを楽しみにしていました。どうぞよろしくお願いします」

「あっ、名探偵の先生なんて……。どっ、ども……風下探偵事務所の風下です」

 理愛は、真面目で素朴な雰囲気だが、目鼻立ちの整った和風美人だ。

 少しボーイッシュでもあるので、夏の風のように爽やかで、凛としている。

 タイトなパンツスーツを着ているだけに、スタイルの良さは隠せない。

 ブラウスのボタンが今にも弾け飛びそうなバストサイズは、多分、聖美や流奈と比較しても遜色ないだろう。

 理愛の胸に向けられた視線を引き戻すように、萩原教授が話を続けた。

「では早速、仕事にかかりましょう!所長さんは、日系人で自然エネルギーを専門とする科学者ということになっています。例の彼女の接待を条件にエネルギー開発の技術指導を行うというシナリオですが、今日、会う相手は彼女だけですから、立場や背景を聞かれることは無いと思います。こちらが部屋のキー……すでに部屋で待っているそうです」

 萩原教授は部屋のカードキーを差し出した。

 受け取ったカードキーをズボンのポケットにしまいながら、風下はもう一つの依頼についての調査報告を始めた。

「では、私の方からも調査報告を……紅子さんからの依頼の検討がつきました。詳細は報告書に記載してありますが、東京湾上にあると考えられている無人島の調査のようです」

 宇宙物理学の調査がどのようなものかは知らないが、こうした例もあるのだろうか?報告を聞く萩原教授は落ち着いている。

「航空会社にも確認しましたが、さすがに自分達だけでヘリを雇って、現地へいくようなことはしていないようです!私のところの所員二人も同行しているようなので、危険な行動はとらないと思いますし……多分、それほど遠くない何処かで……まあ、まず、心配は要らないでしょう!」

そう言い切れるほど、絶対の信頼が聖美と流奈にはある。

「そうでしたか。同じぐらいの年頃だから、旅行ツアー企画の気分なのかも知れませんね。それならもう少し待ってみようかしら?」

 幾分、安堵したかのように微笑んだ萩原教授は、腕時計に目をやった。著名な大物文化人なのだから、当然、分刻みの殺人的なスケジュールは避けられない。

「では、そろそろ迎えの車が来るので、一旦、私は大学に戻ります。後は楠風を介して連絡を取り合いながら、進めていきましょう。本当に、妙なお願いをしてしまって……でも、力になっていただけたのでとても嬉しいです。とりあえずは例の彼女の洗脳を解く手掛かりでもつかめると良いのですが……」

 臨時助手の理愛は階下のコーヒーショップで待機してもらい、萩原教授と別れた風下は、エレベーターで予約された部屋へ向かった。

 無論、いつでも連絡が取れるようになっているし、隠しカメラも靴先にセットしたので、部屋の状況は即時把握可能だ。

「やり難いでしょうから、モニターはOFFにしておきます。なので、何かありましたら先生の方からご連絡ください。それではよろしくお願いします!」

……というのが理愛の送り出す際の言葉だった。

 真面目でさっぱりしているところに加え、口調も事務的。コールガール相手であることや、ホテルでの密会などの事実には、見事なまでに無関心を装っている。

(コールガールが凄く好みだったら、どうしよう? そして極上の接待って……? まあ、場合によっては、仕事だし、一線越えるのも仕方ないよな!とはいえ、理愛ちゃんに見られているかも…となると、幾ら仕事とはいえ、一線は越えられないよな〜。これはツイているのか、運が無いのか?)

 様々な雑念や矛盾と格闘しているうちに、部屋に着いた。この扉を開けば、そこにはとてつもない美女がそのつもりで待っているのだ。

 色々、対応に注意すべき点は多々あるのだが、そこは臨機応変の出たとこ勝負。勇気と覚悟を決めて、風下はルームキーを扉に差し込んだ。

(ビー、カチャ!)

 扉を押し開いて入室する。部屋の中はかなり薄暗い。

(カチャンッ!)

 背後でオートロックがかかり、静寂が訪れる。同時に、風下の鼻腔を甘い香りがくすぐった。

「きゃあ〜、お帰りなさいませぇ、ご主人様! お待ちしておりましたぁ!」

 部屋の奥から、白いエプロンとフリフリの黒いワンピ…ベーシックなメイド服に身を包んだ女性が歩み寄って来た。

「ここはアキバか? えっ…キヨリン!? まっ、まさか…!?」

 衣装に突っ込んだところまではよかったが、メイドの顔を見た途端、あまりの相似にさすがの風下も息を呑みかけた。

 だが、それも一瞬。一秒後には思い直していた。幾らなんでも鈴谷聖美がこの場所に居るはずがないのだ。

 そもそも、真面目で誇り高い聖美が、こうした仕事をするとは思えない。確かに風下の事務所の給与は高くはないが、これまで聖美が経済的に困っている様子を見せたことなど全くない。

 服装や行動からは、余裕すら感じることがしばしばで、しっかり者らしく、歳には合わない額の貯金を持っているとか、実家がかなりの資産家だとか思っていたほどだ。

 それに聖美の失踪は一昨日だが、この女性は一ヶ月前から存在している。

 無論、風下自身が確認したわけではないが、資料や情報による年齢や身体的特徴から見て、続けて居る本人とほぼ断定してよいだろう。

 つまり聖美の失踪とは時系列が全然合わない。

 「私のことは『レイヤ』とお呼び下さい。これから御主人様の妻であり、恋人であり、召使であり、ペットになります。それでは御主人様、初めにお食事になさいます?お風呂になさいますか? それとも……うふっ!」

 改めてよく見て見ると、とても似ているがやはり別人だ。聖美とは、眼の色や瞳の大きさが微妙に違うし、口元にも違和感がある。二人の間には、美人特有の共通点が多数あるのだろう。

「へっ? ああっ、何するか……だよね? そうだな、とりあえず汗を流そうかな」

「判りました。では、私もご一緒させて頂き、お背中をお流ししますね! では、お召し物を失礼させて頂きます」

「へっ? ああっ、ち、ちょっと……待って!」

 流石はプロのハニートラッパーだ。超積極的で高速な展開の前に、風下は全くついていけず、すっかり動揺してしまい、ズボンのベルトにかけられたレイヤの手を、思わず払ってしまったほどだ。

「えっ……? あっ、気が利かず、失礼致しました、ご主人様! 私が先に裸になれということですね?恥ずかしいですが、よろしければじっくりと私が脱いでいく様をご堪能下さい。あっ、もちろん、お気に召すようなポーズがありましたら、ご遠慮なくご指示下さい。ご主人様の言い付けならば、どんな格好でも致しますので……」

 一人合点したレイヤは、さっさと首の後ろのホックに手を回した。これまた最高の気遣いとマッハの展開。完全に飲まれてしまった風下には、もうどうすることも出来なかった。

“プチン…スルリッ”

 首の後ろのホックが外されると、白いエプロンもろ共黒いメイド服は一気に落下した。

「えっ、ミレイヤ!? 嘘だろ?」

 メイド服の下から現れたのは、見覚えのある薄紫のコスチューム…なんとティアラヒロイン聖天使ミレイヤ…と思ったのも一瞬だ。

 姿かたちも似てはいるが、印象が全然違う。張り出たバストやくびれた曲線は同じ様でも、本物のような高潔な爽やかさではない。幾分、扇情的で、なまめかしさだけが強調された姿態なのだ。コスチュームにしても、色だけは同じだが、素人目に見て違いが分かるほど、生地は薄くて透けている。

(コスプレ用の似非商品! なるほどヒロインコスプレということか!流石は、国家の裏外交ルートだ。その時々の客の好みにプレイ内容を合わせているのか!んっ…でも、どうして僕がヒロピン好きって判っちゃっているのかな?)

 一応、風下は海外の天才科学者に扮している。プロフの詳細までは打ち合わせてないので不明だが、趣向をヒロピンにされていないとも限らない。設定としては、ありえなくも無いのだ。

 ただ、これは脱線だ。レイヤが本物のミレイヤでないなら、そんなことはどうでもよい。

「如何ですか、ご主人様。このコスチュームは? あんっ、そんなに見つめられたら……恥ずかしい!」

 コスチュームの上半身部分は、ファッション呼称で言ういわゆるビスチェだ。ピッタリと肌にフィットする造りの上、光線の加減で透けてしまうから、へそや乳房の輪郭はもちろん、乳輪や乳首まで、すべてが丸見えになっている。

 風下の視線を明らかに意識しながら、レイヤは身をよじり、片腕で胸を覆った。

 細腕一本ではバストトップは隠せても、巨乳全体となるとまるで及ばない。寧ろ、深い谷間が強調され、より煽情的なポーズになっていく。

 コスチュームの下半身部分は薄紫のミニスカート。こちらも、中身の純白パンティーがシースルー状態。それどころか、そのパンティーも透けているので、黒い茂みさえ……。

 思わず視点を合わせようとしたところで、レイヤが掌で股間を隠した。

「あんっ、駄目ですよぉ〜! ご主人様! 見たいなら、はっきりと…御指示……ください! 恥ずかしいけど、ご主人様のためなら……」

 誘うような甘い声とともに、コスチュームの透明度が更に増していく。汗でコスチュームが素肌に張り付いていくのだ。

 気付けば風下も汗が滲み出て来ている。願いを口に出すだけで叶う、この状況をどうするべきなのだろう?

「実はご主人様を待ち切れなくて……先ほどから物凄くHな気分です。どうかご主人様の……」

 もう、どうにもならないほど積極的だ。タジタジの風下はじりじりと後ずさりしていく。その間も何とか流れを断ち切るべく必死で周囲を見回した。

(ベッド……クローセット……TV……机……玄関……バスルーム……。あっ、バスルームだ!)

「そっ、そうだね……レイヤちゃん! じゃあ、早速シャワーを浴びようか…ああっ、そうだ、その前に電話を一本しないといけない。先に入っていてくれるかな?」

 風下の背に壁がぶつかった。もう後が無いので横にしか動けない。スペースを探ろうとして伸ばした手に触れたのは、備え付けのミネラルウォーター。つまりテーブルがあって、もう逃げ場は無いのだ。

「はい、判りました。ただ自分では玩具を取り除けないので…(ブブーン)ああんっ!バスルームの中で、ご主人様がいらっしゃるのをお待ちしていますね。もちろん玩具以外は全部・脱・い・で……あっ、そのお水、お飲みになられますか? 私がお注ぎします」

「へっ? いっ、いや、いいよ! いつもコップで無く、ボトルのままだし、自分でやるから!」

 風下はペットボトルを捻り、蓋を取るとあわててゴクリと飲み込んだ。間を作りたかったし、それより異常に喉が渇いている。目の前の、ほとんど恋人同士の距離にいるレイヤの瞳にはボトルが映っている。

 元からレイヤの瞳には欲望の炎が燃えている。ボトルの水ですら、欲望の対象のようだ。

「あっ…君も少し飲む?」

「はい、ありがとうございます! ご主人様から、お水を頂くのは初めてなので、とても嬉しいです」

 このときレイヤは本の一瞬だけ、心底嬉しそうな、清らかな笑顔を見せた。

 聖美にもミレイヤにもうっかり間違うほど似ているな……と改めて感じてしまう。そんな美人が上目使いでいたずらっぽく笑った。

「あの〜ご主人様、もしよろしければ、お水を口に含んでいただけますか?」

「へっ? ああっ、了解!」

 笑わせて水を吹かせようというのか。場を和ませるためとはいえ、古典的な悪戯だ。ただ、わかっていても美人の仕掛けに引っ掛かるなら悪くない。

「折角なので、口移しで頂戴しますね。頂きます、ご主人様!(ブチュウ!)んぐっ、んぐっ!」

 電光石火の早業で、レイヤが抱きついて来て、風下は唇を奪われた。柔らかな感触と共に口の中の水が吸い出され、代わりに甘すっぱい香りが鼻腔を刺激する。

 頭がクラクラして、さまざまな事がもうどうでも良くなって来る。任務も仕事も今すぐ放棄して、この場でレイヤを押し倒したくなったのだ。

と、そのとき……

“澄んだ水…水をもっと! 汚れて…澱んで…戻れない!”

 不思議な声が風下の頭を過った。

 どこかで何度も耳にした聞き覚えのある声のような気がするし、レイヤにも似ているようにも思える。しかし、レイヤなら唇が塞がっていてしゃべることが出来ないから、肉声ではない。

(テレパシーだ! テレパシーで欲しい物を伝えているんだ!)

 もちろん発進元は極近く。そしてこの部屋にはレイヤしか居ない。とすれば……これがレイヤの本心ということになる。

 ただ、推理に集中出来る状況ではない。水を吸い取ったレイヤは、口づけしたまま舌を滑りこませてきた。

「んっぱっ! 美味しい、ご主人様! 続きは…お風呂でね! お先に失礼しま〜す!」

 拘束を解いたレイヤは、ヒラッと身を翻すと、バスルームに踊るように入っていった。

 キャラはとにかく明るく無邪気だ。そんな気軽な雰囲気に加え、あの美貌と魅力的な肉体をもってすれば、大概の男は夢中になってしまうに違いない。

 夢中になれば、欲にくらんだ瞳の輝きや作られた微笑の背景など、どうでもよくなる。

 まして、あんな訳の分からぬツイートのようなテレパシーなど、誰も気に留めることはないだろう。

 ただ、そこは名探偵風下だ。女にモテるかどうかはともかく、勘と推理は人並みではない。

 その上、キスの最中もずうっと違和感を持っていたのだ。先に書いたように、レイヤの香りは甘ずっぱい。

 だが、舌を絡ませてきた時の……唾液の味と香りはまるで別物だった。男性的なほろ苦さとカルキのような香り。そしてトロみのあるヌメリ感。

 唾液はもちろん水分ではあるのだが、あれでは清らかな水というより澱んで濁った液体だ。

 引っ掛かるというより、確信に近い強い疑念を持った風下は、すばやくスマホを取り出した。ワンコールで電話は理愛に繋がる。

「もしもし、こちら風下! こちらは今、シャワータイム……あっ、彼女独りで……という処です。やはり教授のお見立て通りのようだよ。完璧なマインドコントロールに支配されているよ……きっと!」

「やはりそうでしたか! それでまさか彼女に見覚えがあるなんてことは…?」

「最初は驚いたけど……。あっ、いや、初対面だし、テレビや映画でも見たことないな。ただ、流石は国家……凄い美人……いや、そんなことはどうでも良いか……」

 確かにこの場合、美女に対する個人的な評価や感想などはどうでも良い。当然、受話器の向うの理愛にもクールに流された。

「それでマインドコントロールの程度はかなり強いものなのでしょうか?」

「んっ、マインドコントロール……そっ、そのようだけど!ただ…解除するヒントも分かったような。綺麗な浄水……例えば大量のイオンを含んでいるようなミネラルウォーターを用意出来るかな?」

「判りました。すぐに用意してもらいます!」

「少し水を飲んでもらった途端、テレパシーのようなものを感じたんだ! 時間はかかるかもしれないけれど、澄んだ水を飲ませてあげれば、状況が変わるかも知れないな!」

「なるほど、判りました。専門ではありませんが、教授は医学の心得もあるので……ありがとうございました。後は教授に対処してもらいます!」

 講師ということだが、理愛の対応は熟練秘書並にスムーズで頼もしい。様々な意味で緊張しているこの状況も伝えずには居られない。

「了解! ところで僕はどうすれば……実は凄くチャンス……いっ、いやっ、ピンチなのだけど…」

「そうですか、それではすぐに部屋を出て下さい。立て続けの上に急で申し訳ありませんが、先程教授から連絡があり、向かっていただきたい場所があるそうです!」

「それって、ひょっとして?」

「ええっ、東京湾の無人島です。ちょうど現場海域で訓練中の護衛艦の乗艦許可が取れたそうです。まもなくヘリがホテル屋上に迎えに来るはずです。詳細は私が言付っていますので、どうぞそのまま屋上へ上がって下さい!」

 急展開は良くある話だが、今回ほど壮大なスケールの連続依頼はかつて無い。

 前段が国家外交の暗部で、後半が国土防衛訓練への参加。つまり国家にかかわる仕事の連続なのだ。

 依頼のスケールというのは、依頼者の地位や立場で大きく左右される。萩原教授にして、ようやく国家の仕事……名探偵風下の真骨頂を見せるにふさわしい舞台が用意されたということだ。

 まあ、偶々国家が関わっているだけで、依頼内容はそこまでのことではないのだが……。

 部屋の鍵は萩原教授も持っている。レイヤを少し待たせても問題ないだろう。そう判断した風下はシャワールームに向けて大声で呼びかけた。

「レイヤちゃん! ごめん、所要が出来たので、ちょっと出てくるね! それからすぐに綺麗な水が届くから、待って居る間にたっぷりと飲んでおいてね!」

レイヤの反応は悲鳴のようだ。ただ声は甘ったるいので、拒絶ではない。

「ええっー! ご主人様のイ・ジ・ワ・ル〜! もう、そんなに待てませんよー! でも、お水を頂けるなんて、ありがとうございます!沢山飲んで……ああっ、いやあーん! ご主人様ったら、とても恥ずかしいことをさせるつもりでしょう?」

「ああっ、判っちゃった! それでは5分経ったら、目隠しして、後ろを向いて待って居るんだよ!」

 そう言い残した風下は、シャワールームを振り返りもせず部屋を後にした。

(たっぷり飲んで、身体を清めて……。で、でも……なんというか……凄く、勿体無いことをしてしまったような……?)

 ただし今は任務中。後ろ髪を引かれる思いを断ち切った風下は廊下に飛び出し、EVホールまでたどり着くと、ちょうどエレベーターの扉が開き、理愛が顔を出した。

「あっ、ちょうど良かったです! さあ、乗って下さい。屋上からヘリに乗り込みましょう!」

 政府高官が頻繁に利用する、このホテルの屋上には緊急・VIP両用のヘリポートが併設されている。

 待ち受けていた自衛隊員に理愛がIDカードを見せると、敬礼が返ってきた。

「萩原内閣参与よりお話は伺っております。お待ちしておりました。どうぞこちらに!」

 ドアが開けられ、風下と理愛はヘリの中へ乗り込んだ。爆音と共にローターが回転し始め、機体がすっと宙に浮き上がる。

 ちょうど高層ビルの向う側に真っ赤な夕陽が沈もうとしていた。

(あれ、いつの間にか夕暮れ……もうこんな時間なのか!?)

 影の長くなった街にはすでに、キラキラと明かりが瞬き出していた。トワイライトの中、沈んでいく宝石箱のような都会を背にし、ヘリは漆黒の海上へ向かって飛んでいく。

*****************

 ちょうど同じ頃、ここ鬼ヶ島では極太肉棒がラスキアを貫いていた。

 鬼ヶ島は、切り立った断崖絶壁で囲まれてはいるが、無数の洞窟、深い森林、小さな砂浜を持つ入り江も持っている。

 洞窟での暗闇凌辱、森林や草原での鬼ごっこレイプ等々、様々な屋外調教にも適しているというわけだ。

 今日のメニューは、ビーチSEX。夕暮れの浜辺で四つん這いにさせて、サンドイッチ状態で責めているのだ

「むぐっ、むぐう〜うっ! むはっ! ああっ、ステラ様のを…くっ、咥えながら…いっ、犬みたいに…あうう〜うっ!アンヴァン様にっ…おっ、奥を突かれてっ! あひっ、そんなに激しいと、すぐに逝ってしまいますううっ!ああっ、ご主人様っ、逝くっ、逝っちゃうっ、あむっ、むむむっ…ぐうう〜うっ!」

 オークションではラスキアだけが貸し出されずに手元に残った。

 鬼ヶ島はティアラヒロインを陵辱するために用意された島だ。

 一ヶ月程度の調教で三人娘全員を貸し出してしまっては、この立派な施設や環境も勿体無いというわけだ。

 1人だけでも残り、弄べることになったのは、バンテッド一味や鬼族にとっても、勿怪の幸い。

 というわけで、オークションが終了してからも、ラスキアの謝肉祭は毎日続けられている。

 オークションで約束した通り、毎日若干の人間を島に招いては、ラスキアを犯させてはいるものの、調教としては物足りない。

 そこで人間達が引き揚げた後、一味と鬼族が合同で、改めて厳しく仕込んでいくのだ。

 もちろんこの状況はラスキアにとって、貸し出しされ多国籍の相手と桃色外交を強いられているミレイヤや、大富豪の保養施設で性的ペットに成り下がっているフォルティアよりも、苦難な状況だ。

 ミレイヤやフォルティアの場合、巨根絶倫による多人数輪姦だったとしても、所詮相手は人間に限られるからだ。

「むぐぐぐっ…んっぱっ!(ドッピュ!)ああっ、逝っちゃうっ! 逝くっう、逝っくうう〜うっ!(ドピュウ!)」

 ステラの肉棒から吐き出された飛沫がラスキアの顔面に降りかかる。白く濁ったシャワーを浴びながら、ラスキアが絶頂に達したことを高らかに宣言する。

 ラスキアの昇天は魔女のような絶叫と魚のような痙攣を伴う。くびれをしっかり掴んでいても、振り払われてしまいそうになるほど激しく腰を振るのだ。

 それでも奥の方からしっかり絞め付けられるので、外れる心配はほとんどない。腰ごと擦り付けるように動きながら、アンヴァンは軽く呻いた。

 これで本日、何回目の中出しになるのだろうか?ビクビクと震えるヒップから、ゆっくりとアンヴァンの長い肉棒が引き抜かれると、ダラダラ白濁液が零れ落ちる。

 このまま巨乳にしゃぶりついて連続で挑むか、それとも爽快感と虚無感をかみ締めながら、少し休憩を取るか。

 綺麗に縦に並んでいる二つの穴を眺めているアンヴァンの思惑は、そんなところに違いない。

 タイラントと共にラスキアの美肉を楽しんだばかりの赤鬼は、傍らのビーチデッキでしばし身を休めていた。

 一滴残らず注ぎ込んだだけに、しばらくは放心状態。交代で入ったステラとアンヴァンが犯す間、ようやくここに来て、人心地着いたところだ。

 それでもラスキアの青姦3Pを眺めていると、自然に発情してくるから不思議だ。

(今度はあの巨乳だな! 徹底的に巨乳を弄んでから、ぶっかけてやろう!)

 どうやらアンヴァンは休憩を選択したようで、フラフラとこちらに歩き出している。

 次の責め手が決まり、順番も廻ってきた。

 肉欲も高まりつつある丁度その時、伝令の邪鬼が声を掛けてきた。

「報告がございます。赤鬼様!」

「ふっふっふ、これから種付けに入るので、手が放せなくなる! よかろう、このまま聞こう!」

 ちょっとした用事ならば、ラスキアの陵辱は続けるに限る。仰向けになって、ラスキアの下に潜り、巨乳に舌を伸ばした赤鬼は耳をそばだてた。

「ははっ! ただいま人間の船舶が猛スピードで本島に迫って来ております。自衛隊の艦船のようですから、時空バリアを張り巡らしたいのですが?」

 単なる偶然で、脅威とは思えないが、鬼ヶ島を見つけられても今後何かと面倒ではある。

 時空バリアはその言葉通り、時空を歪め、島を存在ごと隠してしまうので、完璧なカモフラージュにはなるが、デメリットもある。

 時空を歪める強烈なエネルギーのため、屋外には居られないのだ。食事中の電話同様、甚だ面白くないタイミングだ。

「何、時空バリアだと! この青姦を中止せねばならないではないか! ええい、そんな船ごときに邪魔をさせるものか! 攻撃隊を向かわせろ!電磁波で麻痺させ、始末してしまうのだ!」

 判断基準は青姦の続行が第一。となると、指示は単純で明確なものとなる。防御に不都合があるから排除……ということだ。

「ははっ! ただ、あいにく現在、パイロット要員が出払っておりまして……」

 ティアラヒロインの邪魔が入らない今は、邪鬼増員のチャンスでもある。邪鬼の元となる人間狩りのため、手隙要員は全て大都会に潜り込ませているのだ。

 困惑した鬼族に助け舟を出すかのように、ラスキア越しの真上からステラの言葉が届く。

「ひっひっひ! ならば、我ら3人が参りましょう! 折角の地球遠征……」人間共を玩具に遊んでみたいと思っていたところ!」

 勇ましい内容だが、口調は惚けたようにゆっくりだ。

 ラスキアの口の中で、肉棒を綺麗に掃除させているから、心から寛いでいる最中だ。

 リーダー不在で、より一層息抜きしている今日この頃でもある。

 オークションが済んで早々に、バンテッド公爵だけが地球を離れた。銀河規模で開催する次回のオークションのため、極上の性奴隷を入手した事実を星々に宣伝しなければならないからだ。

 一般的には、そんな雑務は下々に任せ、トップは肉欲に溺れるという図式が多いのだが、そこは宇宙貴族……フラットな上下関係でもあり、物分かりの良いトップでもある。もちろん、商売相手の動向を探りながら……。

「おおっ、それでは一味の方々にお任せするとしよう! 早速、攻撃隊の準備するのだ! それとすぐに青鬼を呼び出すのだ!ステラ殿と交替し、ラスキアを責めねばならん!」

 飽きはしないにしても、ラスキア凌辱ばかりだと、他事もこなしたくなる。

 実際、戦闘態勢の人間を捻りつぶすのは、気分転換の暇つぶしには、ちょうどいい。

 赤鬼はステラの申し出に乗りつつ、現状維持の対策も施した。

 何といってもピーンと立った乳首が目の前にある。これを吸ってラスキアを犯すことが第一優先課題なのだ。

「ははっ! ただちに!」

 鬼ヶ島は本土上陸を阻止するために作られた旧日本軍の不沈空母だ。

  当然、外敵用に各種の迎撃兵器を備えていた。

 但し、これらは全て60年以上前の兵器であるから、時代遅れも甚だしいし、大半は劣化により使用不能になっていた。

 そこで鬼族が手を加え、整備と改造を施した。

 対艦攻撃は、アメリカ軍より捕獲した攻撃機3機が担当する。大戦中期から末期に使用されたグラマンTBF、通称アベンジャーである。450km/hの速度で魚雷攻撃が出来るプロペラ機だ。

 性能はそのままだが、強力な電磁波を放ち、あらゆる艦船の機能を麻痺させてしまうことが出来る。

 自衛隊の護衛艦は、専守防衛思想から、戦争用には作られていない。要するに、性能こそ良くても、武装は貧弱で、装甲は脆弱。ブリキとは言わないが、薄い鉄板で造られているようなものだ。幾ら数十年前の兵器とはいっても、魚雷の一撃で轟沈してしまうだろう。

 魚雷と小型爆弾を抱いた3機のTBFが、軽快なエンジン音とともに舞い上がっていく。

 ラスキアを下から突き上げながら、赤鬼の脳裏にほんの一瞬だけ、自分が行かないことへの不安が過ぎった。

 ただ、下半身に感じる快感とこみ上げてくる衝動がすぐに不安を打ち消した。

 人間への攻撃などに自分が行く必要はない。

 ティアラヒロインの肉体を攻撃し、子種を放出することの方がはるかに重要なのだ。

*****************************

***つづく